東京高等裁判所 昭和56年(ラ)488号 決定
昭五六(ラ)四八八号事件抗告人、同年(ラ)五二三号事件相手方 上田正
昭五六(ラ)五二三号事件抗告人、同年(ラ)四八八号事件相手方 上田真 外一名
主文
本件各抗告をいずれも棄却する。
理由
本件各抗告の趣旨は、いずれも前記東京家庭裁判所がなした審判に不服があるというのであり、その理由は、第四八八号事件抗告人(原審相手方)上田正については別紙(一)のとおりであり、第五二三号事件抗告人(原審申立人)上田真、同上田栄子については別紙(二)のとおりである。
当裁判所は、本件記録に徴し原審判の認定判断をすべて相当と認めるものであるが、その理由は、左記のほかは原審判理由説示のとおりであるからこれを引用する。
抗告人(原審相手方)上田正の抗告理由について
所論は、要するに、原審判がその特別受益財産目録第1(被相続人上田良関係)の1(賃借権)、2(平家建物)及び3(電話加入権)につき、被相続人上田良が原審申立人らに死因贈与したのは、他人に譲渡しないことを条件としているが、このような条件の設定は財産権の流通性を害し、公序良俗に反して無効というべきであるから、これらの物又は権利は被相続人上田良の遺産の中に加えられるべきであるというのである。そして、右物件の譲渡契約書である甲第四四号証には、譲渡文言たる本文、譲渡物件の表示の記載の次に括弧書として、「但シ他人ニハ譲渡セザル事ヲ条件トスル」と記載されていること明らかである。しかしながら、右記載の趣旨が、抗告人所論のように、右物件の共有ないし準共有者となるべき原審申立人らに、将来永久にその処分を禁止する旨の負担を課したものであるとは、その簡単な記述からはにわかに断定しがたいところである。また、仮にそのように解することができるとしても、右部分は、前記「譲渡契約書」の内容及び記載の態様からすれば、明らかに契約の一部を構成する附款にあたる従たる意味をもつに過ぎないものと解されるので、その瑕疵は右附款部分に存するに止まり、贈与契約全体がこのために無効となるものではないと解するのが相当である。けだし、そのように解するのが契約当事者の意思に沿い、客観的にも妥当であると考えられるからである。したがつて、右物件ないし権利を被相続人上田良の遺産から除外されるべきであるとした原審の判断は相当であつて論旨は理由がない。
抗告人(原審申立人)上田真、同上田栄子の抗告理由について
所論のうち、抗告理由一の被相続人上田良のなした死因贈与につき民法九〇三条三項の適用を主張する点は、記録上、被相続人上田良が同項適用の要件となるべきいわゆる持戻し免除の意思表示をなしたものと認めるに足りる証拠はない。
同理由二ないし四及び八の点は、いずれも、要するに被相続人上田くわ、同上田良の遺産の範囲を争うものと解されるが、家庭裁判所は遺産分割の審判手続において、遺産の範囲のような分割の前提事項の存否を審理判断したうえで、分割の処分を行うことができると解されるところ(最高裁判所昭和四一年三月二日大法廷決定、民集二〇巻三号三六〇頁参照)、原審がなした右被相続人らの遺産の範囲についての認定判断は、当裁判所も記録上その挙示する証拠によつて相当と認めるので、論旨はいずれも採用に値しない。もつとも、昭和五六年三月二〇日の原審の期日調書によれば、当事者全員の陳述として、「遺産である下田市所在の計五筆の土地の合計面積は一七二二・五四平方米であることを認める」旨の記載があり、右は一見右下田の土地が遺産であることを原審相手方において認めたかの如く読めるのであるが、本件の審判手続の全経過からすれば、右陳述の趣旨とするところは、右土地の面積が合計一七二二・五四平方米であることを当事者全員が認めるという点にあり、右記載を理由として、原審相手方において、抗告人らの主張する如く、右土地が被相続人上田くわの遺産であることを認めたものと解するのは相当でない。また、同期日調書と一体をなす原審相手方上田正の審問調書によれば、同人が株式会社○○商店の株式一万株がすべて被相続人上田良の遺産であると認めていないことは明らかである。なお、抗告人らは、理由三で商法二〇四条二項違反を主張するが、同項は、株式発行前の株式の譲渡は、名義書換の必要上、対会社関係においてその効力が制約される趣旨の規定であつて、譲渡当事者間で譲渡の効力を否定するものではないから、何ら原審の判断を違法ならしめるものではない。
同理由七につき、仮に抗告人ら所論のように、遺産全体の中で抗告人らの不服とする部分が大きいからといつて、それ故に原審判が違法となるものというを得ないことは明らかである。
その他、原審裁判官において、その職務遂行の過程において職権を濫用したという如き事実は、記録上何ら窺うことはできないから、論旨は採用の限りではない。
そうすると、原審判は相当であつて、本件各抗告はいずれもその理由がないからすべてこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 田中永司 裁判官 安部剛 岩井康倶)
別紙〈省略〉